パルクール忍びデザイナー

デザインと忍術とパルクールで、面白くてためになることを考えている斉藤きよしさんにインタビューをしてきました。

基本情報

齊藤きよし(Kiyoshi) 
1997年生まれ(24歳)
埼玉県入間市生まれ、入間市在住
デザイナー、パルクール講師、忍術研究家

Shinobi Design Projectを設立し、忍者として「今を生きる方法」を模索し、それを情報発信する事で、後続するであろう同志の道標になる事を目指している。

Shinobi Design Projectとは何ですか? 

戦国時代に発展し江戸時代に体系化された古典忍術(総合生存技術)を現代のデザイン・ビジネス・生活にも使える現代忍術にアップデートし、さらにこれを実践することで忍者的ライフスタイルの創造を目的に活動します。

パルクールについて

中学3年生の時に友達が階段から飛びカッコよく転がるのを見て、教えてもらったのがパルクールを始めるきっかけで、現在はフリーのパルクール講師として活動しています。

パルクールは、身の回りにある塀や壁などを乗り越える事で心身を鍛えるもので、パルクールで大事な事は自分自身の能力をしっかり理解して、身体面と心の面の両方のズレをなくしていく事です。例えば、平地で出来ることが高所で出来ないのはメンタルが弱いからで、逆に平地で出来ないことを高所でやるのは無謀になります。それらを一致させ「心身一如」の状態へもっていけるようにしていきます。正確に自分自身を知るのが重要です。
パルクールは無理な姿勢や動きを行わず、楽な姿勢で機能美を追及していきます。

パルクールの服装について

スウェットのズボンとTシャツが基本です。スウェットはダボッとしたものを着用する事で動きやすく、布地が厚手なのでぶつかった時などの怪我の軽減にもつながります。ですが最近はスウェットじゃなくても動きやすいスポーツウェアが沢山あるので自由でいいと思います。ストリート系のスポーツとして流行っていることもあり、動画撮影では見栄えのするカジュアルな服装で動く人も多いです。スキニーパンツなどの日常的な格好で凄い動きをしているギャップがウケるのだと思います。

忍び装束でパルクールをするのはどうでしょうか?

伊賀袴(タッツケ袴)は旅芸人が着ていたものなので森林移動では草木に引っかかり動きにくいと思います。野良袴のように裾が絞られたものの方がよいと思います。ですが大工さんがダボっとしたズボンを履くのは、裾が物に当たることで危険を察知するセンサーとしていると聞くので、役に立つこともあります。が、パルクールでは大きすぎるものはジャマだと思います(笑)

パルクールの靴について

パルクールで一番重要なのは靴です。靴以外は気にしなくていいぐらいです。経験レベルによって選ぶものは変わりますが、初心者は底が厚くクッション性の高いものが良いです。始めたては着地の衝撃を流すのが下手なので、底が厚い方が安心です。慣れてきたら薄い物にしていくと良いでしょう。僕の場合は底が薄く足裏の感覚がわかり、靴全体が曲げやすく柔軟性のあるものを使っています。加えてできるだけ軽い靴で無駄な意識が足に行かないようにもしています。

地下足袋を使うのはどうでしょうか?

地下足袋は底が薄いと思います。身体操作で衝撃を逃す鍛錬には良いと思いますが、強くはおすすめしません。土や草ならいいですが、アスファルトの地面は硬すぎて流石に痛いです。舗装された地面に合わせて靴のソール、車のタイヤは進化しているのでそれを考えれば分かるでしょう。しかし、日本のパルクール第一世代の佐藤 惇氏は地下足袋を使っているそうです。靴は流行でどんどん変わり同じものを使えなくなりますが、地下足袋は形が変わらないので靴に左右されず練習できるというメリットもあるそうです。

パルクールで教えるとき気をつけている事は何ですか?

センスのある人には動きを見せて真似させる、余計な事を言うとあれこれ考えて動けなくなりますから。逆に運動が苦手な人には動きを見せて真似してもらい、そこから出来ないところを見つけて体の正確な動かし方などを教えていきます。また、積極的な人、消極的な人など個性(心理面)も考慮してどうしたら伝わるかを考え、その人に適した教え方や伝え方ができるように心がけています。
はじめは意識して動く練習をして、だんだん無意識に動けるようにするのが大事です。脳から体へトップダウン方式で動きを覚え、慣れてきたら考えなくても体が動き、脳がそれを知覚するボトムアップ方式に切り替えて行きます。最終的には脳が自分の動きを眺めているだけのような状態(フロー状態)になると良いですね。

宙返り技などは簡単にできるようになるのでしょうか?

簡単とは言いませんが、順を追って練習していけば出来るようになります。バック宙などは垂直跳びが30cm飛べれば理論的には可能と言われています。基本は全て身体の使い方「コツ」なので、同じ人間であれば出来るようになります。

きよしさんにとってパルクールを一言でいうと何ですか?

自分自身を知るためのものです。

デザインを始めるきっかけは何でしょうか?

小学校低学年まではペルテス病(股関節大腿骨頭の血行障害により生じる壊死)で運動ができませんでした。自由に動くことができないので絵を描くことに没頭していました。お陰で好きになった絵を描くスキルを生かして中学は美術部、高校は美術科で、卒業後は桑沢デザイン研究所(専門学校)に進みプロダクトデザインを学びました。

どんなデザインをしているのですか?

プロダクトデザインからグラフィックデザイン、イラストレーションまで行います。多いのは映画や舞台で使う一点物の道具やパンフレットのデザインです。ただ、自分のできる事なら何でも引き受けています。忍器・忍具のデザインや製作・研究・開発も行ってます。

きよしさんの作品

【現代語訳】敵にもし見つかった場合、すぐさま逃げ帰る。捕まらなければ忍びの勝ち。

【解説】潜入中に万が一敵に見つかった場合、すぐさま逃げ出し自陣に帰る。忍びは戦って刺し違えても敵に勝つより、恥でも逃げ帰って敵情を伝えるのが大事。死んでやり遂げることよりも生き残ってやれることを考える。捕まらず逃げ帰れるということは次の戦いに備えられるということ。忍びの勝ちである。

【超訳】仕事でも生活でも安全確保を第一に、危ないと思ったらすぐに安全な場所まで戻れるようにする。危険を察知する能力と、危険に対処する方策が必要である。死んだり失敗してしまったらそこで終わりだが、退路を確保して安全圏まで逃げ帰れれば、もう一度やり直すことができる。逃げ帰り、回復して準備を整えて機をみて再び行動を起こす。生きているというだけで勝ちなのだ。

パルクールと忍術の関係について

パルクールは忍術のトレーニングの一部と考えています。飛神行(忍者が行った身軽さを手に入れるためのトレーニング)に分類されるのではないでしょうか。当時はパルクールで使うような都市建築物はないので、山に入って忍者はトレーニングを行っていいました。

パルクールは遁術の分類ではないのでしょうか?

狭義では遁術とも言えますが、パルクールは逃げる為の技術ではないです。フランス軍の軍隊トレーニング発祥で、兵士が敵地に潜行していく上で「どんな環境にも適応できる心と身体を養う」ことがベースになっています。なのでパルクールはトレーニングと言えます。遁術は「術(技術)」ですが、飛神行は「行(トレーニング)」ですよね。

忍術のどんな分野の研究をしているのでしょうか?

オールマイティが目標ですが、幅広く手を出すと膨大な時間がかかるので出来る事、好きな事からやっています。基本は秘伝書を読んで、現代社会にどう活かせるかを考えています。古文書に書いていることを読み解き、当時の忍者文化・文明を紐解くような学術研究ではなく、古典忍術を現代で使える忍術へとアップデートするという意味で研究をしています。

忍術研究で身体能力と知識の配分はどう考えているのでしょうか?

忍術には陰忍(影に潜み行動)と陽忍(知略を巡らし行動)とがあり、陰陽両面備わってこそ忍者として活動できますよね。なので基本は半々が良いのですが、性格的に身体を動かすよりも知識を入れたり、考えたりする方が好きです。僕が指標にしている言葉に「知行合一」があります。身体を動かし肌感覚で忍術を学び、伝書を読み忍者の思考を知り、身と思を通した修行によって忍者の精神に近づく事が先ずは大事だと思います。

知行合一:知識と行為は一体であるということ。本当の知は実践を伴わなければならないということ。王陽明が唱えた陽明学の学説。朱熹の先知後行説に対したもの。

忍術関係の文献を読み、忍術の修行を実際に行うと人間は何のために生きているのか?という根源的なテーマに気づきます。この生きる目的には二つあり、時間を稼ぐ事、情報を伝える事です。時間を稼ぐは生きている時間を稼ぐ事で、生きている間に人はいろんな事を考えてその情報を他者に伝えます。人類が他の動物と違う発展を遂げられたのは、頭で考えて情報を生産し、子や弟子にそれを託して、子がさらに情報を更新していく。人には寿命があり必ず死にますが、情報は生き続ける。個人としての存在は死んでも、集としての情報の中では生き続ける事になります。

※下記には忍者の世界観や思考についての記載があるの、ご覧ください。

好きな忍者はいますか?(歴史、漫画など)

藤田西湖です。僕は古典忍術をアップデートして現代に活かす事を目的に活動していますが、藤田西湖は昭和の時代に甲賀流忍術十四世を名乗り、文明の発展した時代において忍術を活かして活動しているところが面白いです。藤田西湖の著書の末尾に「忍術の精神を生かし、時代に即応させて行くならば、その効用は限りなく発揮される」という一文があり、自分の活動の支えになっています。

公開していない忍者、忍術情報などありますか?

パルクール・古武術・忍術・古文書・現代科学といろんな視点、情報を組み合わせて研究をしていると様々な細かい事に気づくのですが、ネットに書くのが面倒でまだ公開していないものがいくつかありますね。たとえば「気」について。呼吸法の息長( おきなが )では最初呼吸を意識して練習しますが、慣れてきたら最終的には気をイメージするようにします。気なんてものは実際には無いのですが、気を意識する事で脳のイメージと実際の身体の動き、呼吸のタイミングが繋がります。パンチという動作を例にすれば、腕を突き出すという無意識による身体コントロールに脳の強く重い一撃を与える気の流れのイメージ(意識)、さらにインパクトの瞬間と呼吸が一致するということです。気の解釈はいろいろで、武術や忍術、東洋医学など捉え方はそれぞれあります。

将来の夢は?

シノビデザインプロジェクトと題し、古典忍術を現代の生活・社会・ビジネス分野にも応用可能な現代における忍術にアップデートし、これを実践して行く事でゆくゆくは忍者的ライフスタイルを形作れればいいなと思っています。新しい物を生み出すには古い物を正確に知らねばなりません、そのために伝統的な忍術を伝える伴家忍之傳を学び身体を養い、忍者が書き残した伝書を読み考えて智慧を身につけ、修行を通して当時の忍者の精神に近づく。自分自身が忍者になる事で現代を見た時、何が観えるか、何をすべきか。その境地に達した時、現代に応用可能な忍術となるのだと思います。この忍術を活かし、忍者の心で生きる忍者的ライフスタイルが、幸せな生き方の一つの答えではないかと僕は思い、これからも活動を続けたいと思います。

本日はお忙しい中、パルクール体験とインタビュー協力ありがとうございました!!

コメント

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