投石技術を求めて①(歴史編)

投石は安全な位置から一方的に攻撃ができ、それによって戦略を考える時間が生まれます。さらに戦略的な優位性を増すために情報が必要となってきます。結果として積極的に情報収集がなされ、諜報活動が活発化して忍者誕生へ繋がったのではないでしょうか。投石は原始的な行為ですが、人類の進化や忍者の誕生と深くかかわっているといっても良いでしょう。

投石技術を有する流派インタビュー

投石について細々と調査を続けていたのですが、今回なんと印字(印地)打ちの技術を有し、手裏剣へ技術転換した武術流派へのインタビューが叶いました!

その流派は和伝流手裏剣道です。つぶて術、印字打ちは失伝している事が多く、伝承自体を秘密にしている流派もあります。和伝流手裏剣道、山井流柔術拳法を継承する木崎克彦宗家が快く取材に応じてくださいました。

今回のインタビューによって内容は改定していきますが、オンライン講座資料をもとにご質問させていただきましたので、参考に7ページほど抜粋し添付しておきます。

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和伝流手裏剣道と投石について

和伝流手裏剣道は大井俣窪八幡神社の「石投げ神事」が起源との事です。初代宗家の鶴田勲先代宗家は大井俣窪八幡神社の神職で33代続いた神官家出身です。鶴田先代宗家が代々伝えてきた神事から手裏剣技術へ発展させ木崎宗家が継承されました。大井俣窪八幡神社は山梨県にあり、甲州武田軍の投石部隊の技術が現在に残っています。石投げ神事は現在も続いており、和伝流は奉納演武も行っています。

詳細については木崎宗家の著書「手裏剣術で開眼」をご参照ください。

石投げの神事

大井俣窪八幡神社で行われる石投げの神事は川の氾濫がないように川に攻撃をして鎮める儀式との事です。お神輿を担いで神様を川のほとりまで移動し、祈祷した石を氏子に配り、川岸に並んだ氏子が一斉に「え~~~ぃ!」と気合をかけ、川へ石を投げるそうです。大井俣窪八幡神社の近くには笛吹川があり、よく氾濫した為に川を攻撃し、鎮めるのが「水郷祭」で今でも続いているとの事です。

木崎宗家の父親の世代までは、正月飾りや御札などを炊き上げる「どんど焼き」で組まれたやぐらを隣の集落の人々が壊す事があったそうです。やぐらを壊すために様々な戦略など工夫があったようです。また、自分のやぐらを壊されては困るため、守る方も工夫しています。やぐらの中に隠れるなど、まるで忍者のようです。この集落間の抗争のようなお祭りようなものが、石の投げ合いだったとの事です。

戦国時代などは水の権利などをめぐる農民の抗争が石合戦としてありましたが、それが子供の遊びとしても広まっていきました。しかし、怪我人が出るために江戸時代以降は禁止される事も多く、昭和の時代まで残っているのはまれです。

武田軍の投石部隊

武田軍は騎馬隊が有名ですが、突撃前に投石部隊が露払いを行っていました。三方ヶ原の戦いにおいて、武田信玄は投石部隊を用いて徳川家康・織田信長と戦ったと言われています。戦国時代は開戦時に投石から始まる事が多かったとされています。投石から始まり、弓、鉄砲、槍や刀の接近戦へ移っていくのがセオリーだったようです。

投石部隊の役割は石を雨あられのように集団で投げる事で、特定のものを狙って投げるのではなく敵集団に向かって投げていたと思われます。手裏剣術は特定のものを狙い、正確に当てる事を目的としている事が多いため、コンセプトが違います。投石の場合は的中率より距離をどのように伸ばすかがテーマで投石紐(スリング、石もっこ等)や石に紐を結び、ハンマー投げのような工夫に繋がったのではないかと木崎宗家は考えています。

投石(印字打ち)から手裏剣へ

和伝流は投石で崩し、騎馬隊で勝負を決める集団戦法を個人戦法にした流派です。集団対集団の武技が印字打ちで、個人対個人の武技が手裏剣術になり、和伝流は印字打ちから手裏剣術へ移行していったとの事です。

敵の戦意を喪失させるための石は手軽で携帯にも便利ですが、敵を制圧するには至りません。騎馬隊は馬や槍など大掛かりですが、最終的な敵の制圧が可能です。石と槍を一つの武器にしてしまえば便利になります。手裏剣は携帯性にすぐれ離れた間合いから崩し、接近しても手に持ち小さな槍として突く事ができます。手裏剣は石と槍を一つに集約した武器として選ばれました。

時代とともに、なんでもやる総合武術から居合、剣術、手裏剣術など個別に専門化する流派も出てきました。それとは逆に投石から総合武術を構築した和伝流手裏剣道は、類をみない流派として、とても興味深いです。

まとめ

投石は武士として品位に欠けると考えられ、石を投げる行為が廃れ手裏剣術へ移行していったと木崎宗家は考えています。石から手裏剣の変化の過程が和伝流手裏剣道には残っており、そのお話を聞けたことは大変貴重な事だと思います。

投石は狩猟や戦闘から競技、遊戯、信仰、占い、刑罰などへ変化していきます。今回は信仰と戦闘が中心となっています。そのほかの投石の歴史、日本ばかりでなく世界の投石を調べると、さらに面白いと思います。

by 須田あゆむ

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